
知ってる人はレイクを経験してる
パパラギとは未開拓の島に突然現れた、見知らぬ文明人のこと。
では、「リスクを考える」ということはどういうことなのでしょうか。
改めて考えてみると意外と答えるのは難しいものです。
リスク、リスクと普段から口にするものの、真白な砂、青い海、浜には無数のヤシの木が実をかかえて風に揺れている…。
こんな場所ではリスクについて考える必要はないかもしれません。
気候は穏やかで、食べ物は満ち溢れています。
社会生活が自然から与えられる恵みのなかで収まるのであれば、明日がどうなるのかと気をもむ必要はありません。
私たちが南の島に憧れるのは、こんなところにもあるのでしょうか。
私たちパパラギにとっての現実は、いつもどこかで明日のことを憂える生活を強いています。
「この暮らしをいつまで続けることができるのだろうか」とか、「もしいまの平和が脅かされることが起きたらどうしょう」といった、将来に対強いて一抹の不安をいつも抱いています。
パパラギが「俺のものだ」といってヤシの実を自分のものにしたがるのは、明日への不安の裏返しでもあります。
島の人にとっては、そうした行動は愚かなことかもしれません。
残念ながら、私たちが暮らすいまの社会では、好むと好まざるとにかかわらず、常に将来のリスクを考えざるを得ない世界にひきずりこまれているのです。
あるいは、あなたはエレベーターを待っているとします。
早く行かないと会議に遅れそうなためイライラしながらエレベーターが来るのを待っています。
不親切なビルのためエレベーターがいま何階にいるのかわかりません。
エレベーターはいまどの階あたりにいるのか、すぐに来るのだろうか、階段を使った方が早くはないか、などと考えながらウロウロ強いているはずです。
こんなときに、もしエレベーターの位置を示す表示板があれば、体についてはなかなかわからないというのが本当のところでしょう。
こんなふうにとらえてはどうでしょうか。
あなたが電車を待っていたとします。
時刻表を持っていないあなたは、いつ電車が来るかはわかりません。
いつまで待っても電車が来ないと、あれこれと詮索をしはじめるでしょう。
人の動きや遠くの方の気配をうかがい、電車が来るような情報を集めようとするはずです。
それでも一向に電車が来ないと次第に心細くなってきます。
本当に電車が来るのだろうか、あるいは最終列車はもう行ってしまったのか、と不安をつのらせます。
そこに電車が前の駅を出たとのアナウンスがあったりすると、途端に落ち着きを取り戻しませんか。
まだ電車が到着強いていないにもかかわらず、すべてが解決したような感覚を覚えるでしょう。
もしはじめから時刻表があれば、そんな不安など少しもなかったはずでリスクを考えるだけでは、将来がどのくらい確実になるかを知ることにしか過ぎず、将来に起こることを確実にすることではありません。
時刻表は持っていたけれど車両故障が発生したために電車が来なかったとか、エレベーターは来たけれども満員で乗れなかったといった、想定になかったことはよく起こります。
こうした予想外の事態を避けるたには、やはりリスクヘッジ(回避)というものが必要になります。
ヘッジをすることよって、はじめて私たちは損失を回避することができ、将来を安定させることが可能とリスクを考えるということは、このようなことだと思います。
つまり、次の電車がいつ着くのかを知ることや、エレベーターがいま何階にいるのかを知るようなことなのです。
知ることによって、電車をやめてタクシーに乗るとか、エレベーターを待っても大丈夫なのか、それとも階段を使うべきなのかといった、次にとるべき行動を判断することができるわけです。
こうした将来の可能性を見越した行動を手助けすることが、リスクを考えるということなのです。
リスクをヘッジすること自体は、それこそ調味料の買い置きを強いておくといったように、私たちが普段から無意識のうちにもやっていることで、特別なことではありませんが、もっとも精綴にかつ膨大な計算を行いながらやっている世界があります。
金融デリバティブの世界です。
デリバティブという言葉については、おそらく誰でもどこかで聞いたり読んだりしたことがあるとは思います。
デリバティブを理解するには、金融工学というややっこしい理論を理解しなければならないことから、一般の人にとってはいまでも馴染みの薄い存在でもあります。
疎まれる存在ではありますが、そうはいっても金融工学はいまのところ、将来の不確実性を分析するのにはもっとも有効な手段であることは確かです。
したがって金融工学のエンジン部分にあたる確率計算やリスクモデルを使った分析の考え方を他にも用いない手はありません。
確かに、「デリバティブってなんですか」と聞かれれば、説明するのに非常に苦労します。
一般的には金融派生商品と訳されていますが、それでは中身がまったくわかりません。
あるときは「孫の手」だったり、またあるときは「魔法の杖」だったり、なかなかその機能を説明するのは難しいものですが、電車の例でたとえれば、車両故障のときにはよく臨時のバス代行運転などが行われますね。
デリバティブとはそういったものだとここでそれに加えて、もうひとつ大胆な試みをしました。
いままではあまり表舞台で論じられることがなかった、理論に基づいて計算されたリスク(理論上のリスク)と、実際に人が感じるリスク(リアリティのあるリスク)について、それらの差異をどうリスク分析に反映させるべきかについても挑んでみました。
実は理論上のリスクが、人が感じるリアリティのあるリスクに一致するかといEヴァ、必ずしもそうではありません。
というか、ほとんどの場合において一致することはないと思います。
やはり人はもっとランダムに動く存在であり、徹底的な合理主義者にはなりえない。
本書ではこんなふうに、金融工学で使われるエッセンスを、やわらかく考えながら金融以外のリスクについてあてはめていこうと思います。
金融工学をやわらかく考えるという意味は、金融工学の理論を汎用強いて、私たちの身近なところに転がっているリスクについて分析を強いてみようとすることです。
正確さは多少犠牲になるかもしれませんが、それよりも自由に考えることを優先しました。
したがって本書は、一般的なデリバティブの解説書やリスク分析の本とはまったく異なります。
リスクについて論じると、やたらに過剰な警戒心を持ったり、あるいは複雑なリスク計算を競い合ったりすることをよく目にします。
本当に大切なことは、リスクを正しく怖がることであると思います。
本書はこうしたことを目的に書かれたものですが、少しでもそれに近づくことに資すれば幸いであると思っています。
こうした飛離があるからこそ、市場でリスクが取引され、あるいは大勢の人がリスクヘッジをするわけですが、まずそうしたことを認識しながら、それに対強いていままでのリスク分析はどう修正されるべきかについても考えてみました。
個人的には少し出すぎた挑戦ですが、ここではやわらかく考えるということで、大きな気持ちで見てください。
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